1982年作。
ネタバレあり。
一昨日「針供養」の記事を見て真っ先に岸田今日子を思い出して笑ってしまった。
ホラーは苦手だが根津甚八、村井国夫、芦田伸介、室田日出男、神山繁、名古屋章、戸浦六宏(敬称略)など、好きな役者さんが多かったので最後まで観てしまった作品。
ただ、映画を観たのは去年で感想もその時に書いたものになる。
岸田今日子と岩下志麻が強烈。
昭和の役者と現代の俳優の違いがよくわかる作品だった。
一見、気の毒な事情で病んでしまった母親役の岸田今日子。
物語が進むにつれてその事情の中身がなんとなくわかってくる。
そして終盤の「ちゃんと知っているのよ」と半笑いで布団から顔を出すシーン。
怖すぎて逆に笑ってしまった。
凄いよこの人。
そして畳み掛けるように大根と豆腐が針山のようになるまで針を刺し続ける。
まさに針千本。
おまけに一刺しごとに「〇してやる」とブツブツ呟くものだから不気味だ。
暮らしが貧しいのによくそんなに大量の針を持ってるなという疑問もあるが、この効果的な演出の前では些細なこと。岸田今日子のみならず、声や風貌といった素質を見事に活かした製作陣には敬意を表したい。
だいたい疑問なんて書き出せばキリがない。
最初の被害者の大根っぷりも酷いし、岩下志麻の恋心も唐突すぎてポカンとする。
しかし、そんな場面は重要じゃない。
セーラー服の岩下志麻は無理が…別な意味で驚いたけど、そこも重要じゃない。
この頃の映画は雑なところは本当に雑なままにしてあるので珍しくはない。
大事なのは岩下志麻演じるマヤの怖い一面だ。
「おかあさん、おかあさん」と呟きながら犯行に及んだり、過去を独白しながらかんな棒をさする姿がまあ怖い。
かんな棒なんて本当にあるのかと検索してみると、こけし職人などの道具として実在するようだが形状も使用方法も異なるようだ。
検索結果には『この子の七つのお祝いに』が出てくるので創作された道具なのだろう。
終盤はほぼ岩下志麻の独壇場。
「お人形さん…だったの?」って台詞がツボに入ってしまう。
笑う場面ではないのに、なぜか声のトーンが可笑しくてふきだした。
迫真の演技過ぎて怖いのを通り越してしまっている。
最終的に、ひとりの狂った母親に巻き込まれた人々の悲しい物語ということが明らかになる。
出生の秘密、親父さんが抱えてきた苦悩、奪われた気の毒な母親。
それらをいっぺんに知ってしまったマヤはショックで目が見えなくなったようだ。
あるいは狂ってしまったのかもしれない。
演じた岩下志麻の個性が光るオチだった。
とにもかくにも昭和が詰まっている映画で役者、風景、建物、全てが懐かしい。
そして音楽は大野雄二。
やはり才能が光る。
主題曲?が頻繁に挿入されているが、なぜか聴き憶えがあり一瞬ほのぼのしてしまう。
気になって調べてみるとNHKの「小さな旅」のイントロと似ているからだった。
どうりで聴いたことがあるはずだ。
「小さな旅」を知っているとちょっとほのぼのしてしまうホラー作品だった。